合唱団じゃがいもは、作曲家の林光さんとともに、数多くの作品を作ってきました。
林光さんが書いてくださったじゃがいもについての文章をご紹介します。

第17回定期演奏会プログラム [1990.11.6]

 2年ぶりで、また「じゃがいも」の皆さんと、一夜のコンサートを共にすることになった。前回は『鼠たちの伝説』の、華麗なステージだったが、今回の『ザ・カーニバル あるいは自由への道』は、ずっと地味で、ほろ苦い味がするだろう。この曲を書いた1988年の12月、まさか1年もたたないうちに、ヨーロッパの一角が自由を求める叫びで揺れうごくとは、思いもしなかった。多くの人びとが自由を手にしたが、その手の中の「自由」が放つ光は、どことなく小切手くさくて、精神性が足りないような気がしないでもない。だとしたら、この『ザ・カーニバル…』の存在理由も、まだまだ、そうかんたんには消えてなくならないだろう。
 今回も、『鼠たちの伝説』にひきつづいて、加藤 直さんに参加していただけることになった。ここ数年の、ぼくの音楽劇は、加藤さんのアイデアを抜きには語れない。「じゃがいも」の皆さんも『鼠たちの伝説』ですっかり仲良くなった加藤さんと、たのしく稽古を重ねている。とすれば、のこるは、「たのしい」稽古から、いったいどのような「ほろ苦い」味が生まれてくるのかという、ここが期待のしどころであろう。
曲目:⑴『ちっちゃなボゥ・ピィプ』、⑵『林光ソングブック』、⑶『ザ・カーニバル あるいは自由への道』

第19回定期演奏会プログラム [1992.11.7]

 ことしのプログラムは、いつもの「じゃがいも+林」より、すこし重いぞ。
 でも、ふたつの宗 左近ものが照応し、万葉の歌と木島さんの讃歌とがひびきあい、もったいないくらいの構成である。
 むかしと今の出会いから鳴りひびく歌を、お聞きください。
〔曲目:⑴『万葉歌あそび』、⑵『火の夜』、⑶『月・わたし・風』、⑷『鳥の歌』〕

第21回定期演奏会プログラム [1994.11.5]

 一年おきに「じゃがいも」とつきあうたびに、こどもたちが成長し、あるいは新しい顔ぶれが加わってくるのを見るのが、たのしみだった。年長組は、年少組のひとりがむずかりはじめると、さっと全員をひきつれて移動し、しばらくするとまた戻ってくる。めいめい勝手に気を散らしているようでいて、いつのまにか親たちより先に曲をおぼえて、親たちよりいい音程で歌う。
 そのうちこの子たちを舞台にのせて一緒に歌いたいねと、いつからか言いはじめた空想が、ことし実現する。
 全曲ユニゾン(斉唱)の『こどものたたかい』を「合唱」する「じゃがいも」も、このクニでは貴重な存在だが、やがてお互い熾烈なたたかいをはじめることになろう親と子並んで、『こどものたたかい』を歌おうという「じゃがいも」は、えらい。
 『おまけの平和とさいごのなるほど』には、今回、加藤さんにおねがいして、こどもたちの出番を書き加えていただいた。
 10月25日、ファックスで歌詞がとどいた。10月29日、山形へ向かう新幹線の車内でスケッチをとり、その日の稽古が終わったあと宿で書きあげた。
 翌30日午後、こどもたちに歌ってきかせた。2回目から歌いはじめたかれらは、4回目で覚えてしまった。正確には「覚えちゃった」とひとりが叫んだ。すぐに立ち稽古にはいり、かれらの出番ははじめて歌入りで二回稽古ができた。しごとができて張り切るかと思ったが、待っているあいだの過ごしかたは、いま変わらず、退屈するとなにかと稽古のじゃまをする。
 本番まであと数日。
〔曲目:⑴『木のうた』、⑵『こどものたたかい』、⑶『さくら』、⑷合唱劇『おまけの平和とさいごのなるほど』〕

第23回定期演奏会プログラム [1996.10.19]

 「じゃがいも」とのコンサートも、6回目とはいまさらながらおどろきだ。音楽をやるのも聴くのも、苦行になってはつまらない、という一点で、「じゃがいも」とぼくと、そして加藤 直さんとはつながっている。だからといって、いいかげんに楽しくやっていればいい、というわけにもいかない。それにことしは、はじめての書き下ろし曲、『かしわばやしの夜』の初演に加えてもうひとつ、こっちはぼくのほうから売り込んだ、バッハのカンタータのニホン語版との二本立てという野心的なプログラムになった。けれども「じゃがいも」は元気いっぱいで、しかも『おまけの平和とさいごのなるほど』で片鱗を見せた「じゃがいもジュニア」たちが、ことしは本式に登場、大活躍する。どうか最後までお楽しみいただきたいと、切にお願いする次第。
〔曲目:⑴カンタータ第140番BWV140『目を覚ませと叫ぶ声がする』、⑵『序詞』、⑶音楽劇『かしわばやしの夜』〕

音楽劇「ヴィヨン 笑う中世」(サニーサイドミュージック)

[1997年4月12日]
(コーロ・カロス委嘱作品の楽譜より)
このジャンル、音楽劇とこの曲では称しているが、同種のべつの曲では合唱劇となっていたり、次回は合唱オペラと名乗ろうかと考えていたりで、呼び名が定まるのは、まだ先のことだろう。歌い、語り、演じることのすべてを合唱団員が受け持つ、したがって合唱に一定の力量が要求される舞台作品、といえばいいだろう。この「ヴィヨン 笑う中世」では〈男〉の役に歌う役者を招いたが、それとて絶対の条件ではない。むしろ客演はせいぜい一人にとどめるべきで、まちがっても歌う専門と演じる専門などと分けることは禁物。
オルフェウス物語による「鼠たちの伝説」(佐藤 信・台本)がはじまりで、その後、アリストパネスのギリシャ喜劇「女の平和」による「おまけの平和とさいごのなるほど」(加藤 直・台本)、新約聖書による「君の受難曲」(佐藤 信・台本)、宮澤賢治による「かしわばやしの夜」、「ヴィヨン 笑う中世」、そしてアルベール・カミュを下敷きにした「戒厳令・アジアンコミックス」(加藤 直・台本)とつづく一連の試みは、さいしょの「鼠たちの伝説」以外、すべてアマチュア合唱団との共働でつくられてきたし、「鼠たちの伝説」も再演以降はアマチュア合唱団による公演がつづいているが、もともとは全方位へ向けてひらかれた作品。めざすところは、ただひとつの生きた日本語が、歌う行為と語る行為のあいだの障壁を打ち破ること。

第25回定期演奏会プログラム [1998.10.24]

 夢が実るとは、こういうことなのだと思う。
 ほぼ一年おきに訪れる「じゃがいも」のけいこばの片隅で、遊び、たいくつし、昼寝をし、そのくせおとなたちよりもさきに歌を覚えて歌っているこどもたちを眺めながら、いつかこの子たちと一緒のステージをつくれるといいねと、みんなで話しあってきたものだった。4年前の『おまけの平和とさいごのなるほど』、おととしの『かしわばやしの夜』と、少しづつ出番をふやしてきた子供隊の、今回は本格的なお目みえだ。
 歌そのものでおとなたちを批評し、はげまし、ときには圧倒するかれらをはさんで、おとなたちが歌いはじめる。

 春になりました そして 子供たちが11人になりました

 はっと気がついた。それは、年ごとにこどもたちがふえ、育ってゆく「じゃがいも」の光景とそのまま重なる。思えばあの頃から、きょうの『狼森と笊森、盗森』は運命づけられていたのにちがいない。
〔曲目:⑴『三つのカンタータ』、⑵合唱劇『狼森と笊森、盗森』〕