合唱団じゃがいもの合唱劇 12

合唱劇 賢かった三人(合唱劇版・初演)


原作  宮沢 賢治 「洞熊学校を卒業した三人」
          「蜘蛛となめくじと狸」
作曲  林 光 

 芸術文化振興基金助成事業

合唱劇版初演
  2004年11月6日 合唱団じゃがいも第31回定期演奏会


Staff * スタッフ

台本・作曲  林  光
演  出   加藤 直
指  揮   鈴木 義孝

照  明   安達 俊章
美  術   神保 亮

楽  団   林  光
       郷津 由紀子
       平下 和生
       郷津 隆幸

Cast * キャスト

蜘蛛     大江 晴美
かげろう   渡邉 秀至
女の蜘蛛   小野寺 利恵子
なめくじ   鈴木 裕美
狸      東海林 聡
かたつむり  鈴木 俊明
あまがえる  鈴木 恵
なめくじ   森谷 富美子
うさぎ    布施 恵子
おおかみ   吉田 泰宏

演奏会に寄せて    

林  光 


 また“じゃがいも”との一夜がめぐってきた。“牽牛”と“織女”は二年にいちど逢瀬を楽しむ、変則的な牽牛織女である。
 「注文の多い料理店」の序文ではじまる第一部のために新しく作曲した二つの詩は、どちらも明るく楽しいジャンルのもの。自分の作品をピエス・ノワール(黒い芝居)とピエス・ノワール(赤い芝居)に分類したフランスの脚本家ジャン・アヌイにならって言うなら、ルージュのほうだ。どちらも、のどかで明るいイーハトーボの風景のなかでくりひろげられる幻想である。
 「冬と銀河ステーション」では、劇中劇を思わせる歳の市の描写を手がかりにして、オペラと合唱曲のあいの子のようなステージをつくってみようとした。
 「北上川は・・・」で語られる、カワセミとヨダカとハチスズメ三人きょうだいの話は、童謡「よだかの星」でおなじみのもの。
 オペラ「賢かった三人」は、1994年こんにゃく座が初演したものの、再演を期につくった縮小版。合唱団向けに直すということは特にしなかった。なんでもいいから一番になれという、洞熊先生の教えを忠実に守って破滅してしまうクモとナメクジとタヌキに、こんにちただいまの人間世界のすがたを見ることもできようが、そのことにちからを入れてつくったものではない。単純に、虚心に、おかしなハナシを楽しんでいただきたいと思う。

(第31回定期演奏会パンフレットより)

演奏会に寄せて    

加藤 直 


 「じゃがいも」という合唱団(というよりそのグループを今、成立させている一人一人)と共同で舞台を作る楽しみの一つに、メンバーの子供たちの「団」そして親たちとの関係の変化を見定めることにあるのではないか、と気付いたのはいつ頃からだろう。休符で突然ぐずり泣き出す赤ん坊の頃、音楽の内容に頓着なく走り廻る幼稚園児のころ、隅っこで漫画と宿題のノートに代る代る首を突っ込んでいる小学生の頃、恥ずかしそうに親たちの後方で歌に加わる中学生の頃、そしていつの間にか親たちよりずっと毅然と生き生きと口を開けて身体を動かす高校生それ以上!そこには人間同士の関係の始まりである家族から刻々と変化する彼らの社会や現実世界のダイナミズムがこのグループに丸ごと持ち込まれている様子が感じられて興味がつきない。
 興味がつきないといえば、宮沢賢治の詩や物語に林光さんが作曲した沢山の歌曲やオペラもそうだが、今回は取分け「冬と銀河ステーション」と「北上川は熒気をながしィ」が面白い。こうなると賢治の詩がどうの、光さんの曲がどうの、というのではない双方の関係が創出するまた一つの新しい世界なのではないか。これらの作品は確実にこのボクらの今・此処に乱反射し、世界がたった一つの価値観や美意識で判断されるのではなく、また様々の見方によって色々の姿に変わり得るものだということを想像させてくれる。ボクは聴きながら「自己の中に無数の他者の声が鳴り響く」とロシアの哲学者バフチンが「対話とカーニバル」について書いた言葉を思い出している。

(第31回定期演奏会パンフレットより)