じゃがいもの合唱劇21

合唱劇 オツベルと象

【委嘱作品・初演】
 
原作    宮沢 賢治
作曲    吉川 和夫
演出    恵川 智美
指揮    鈴木 義孝
 

Staff * スタッフ

照明    安達 俊章
美術    安藤 淳
舞台監督  平野 礼子(劇団山形)
 
演出助手  鈴木 瞳
副指揮   郷津 幸男
 
照明    庄司 大也、長岡 竜也、
      時田 信明
音響    原田 和宗、高梨 航輔
舞台    亀井 泰樹
 
協力   オペラシアターこんにゃく座
     山形県立山形北高等学校音楽科
     安藤 純子
     渡邉 明美
 
 

Orchestra * 楽士

オーボエ      西沢 澄博
ヴィオラ      清水 暁子
コントラバス    助川 龍
ピアノ       郷津由紀子
 
 

Cast * キャスト

牛飼い       安藤 淳
オツベル      東海林 聡
白象        鈴木 恵
月         藤江 泰郎
赤衣の童子     古澤 優芽

あらすじ

 ……ある牛飼いがものがたる
 オツベルときたら大したもんだ。稲扱器械の六台も据えつけて、十六人の百姓どもが足で踏んで器械をまわし、のんのんのんのんのんのんと、大そろしない音をたててやっている。そのうすくらい仕事場を、オツベルは大きな琥珀のパイプをくわえ、吹殻を藁に落さないよう気をつけながら、ぶらぶら往ったり来たりする。
 そしたらそこへ白象がやって来た。白い象だぜ、ペンキを塗ったのでないぜ。どういうわけで来たかって?そいつは象のことだから、たぶんぶらっと森を出て、ただなにとなく来たのだろう。
 そいつが小屋の入口に、ゆっくり顔を出したとき、オツベルは、ちらっと鋭く象を見たが、何でもないというふうで、いままでどおり往ったり来たりしていたもんだ。
 
 

TO:Kenji-M@ihatov.or.jp
SUB: Re:「オツベルと象」     吉川和夫(作曲家)

 賢治さん、お久しぶりです!東北は、木々が身にまとう衣装を赤や黄色に取りかえるにつれて、空気が冷たさを増しています。本格的な冬が、まもなくやってくるでしょう。
 
 「オツベルと象」。楽しい、面白い作品ですね。賢治さんがこの作品に注いだテンポ感は、とてもすばらしい。とりわけ 「第五日曜」で象たちが押し寄せるシーン、細かくスペクタクルに書き込んでいますよね。凄い迫力!作品全体にみなぎる文章の勢いを音楽が削ぐことにならないよう、苦心しました。
 
 ところで、読み進めると、いつもながら意味深長な細部と出会うことになります。赤衣の童子とは何者?象たちは沙羅樹の下で碁を打っている?そもそもなぜ白象?ペンキを塗ったのではないんですよね?古い仏教説話かと思えば、白象が祈るのは「サンタマリア」。考えるといろいろわからなくなるのですが、わからないからかえって面白い。さすがです。
 
 さて、そんな楽しい謎に囲まれながら、この数か月、作曲をするために「オツベルと象」と向いあっていたわけですが、このお話の意味は、日に日に切迫してくるように思えてならないのです。弱いものいじめをする者には必ず罰があたるぞという教訓?現実には起こりえない荒唐無稽な寓話?ブラック企業に搾取される悲哀?それはそうなのでしょうが、それだけとは思えません。私たち自身、「ここにいていいよ」と言われて気をよくして、そんなものいらないなぁと思いながらも「持ってみろ、なかなかいいぞ」と言われ、しぶしぶ持ってみると「なかなかいいね」と思ったりしていないだろうか。「すまないが」の言いなりになっているうちに、気がつくと自由も平和も奪われていないでしょうか。突き詰めれば、私たちが純朴な象でいたために、フクシマの悲劇は起こったのではないか…。賢治さんは、象に見立てて、人間の弱い姿を描いたのではないかとも思えるのです。
 
 いつもパワフルでキラキラしているじゃがいものみんなと義孝さん、温かみと切れ味の演出家恵川さん、仙台の楽しい音楽仲間の西澤さん、清水さん、助川さん、それにいつも的確に曲の性格を表現してくださる郷津さんは今年私の作品初演2曲目。盟友・萩京子さんの名作との2本立ても嬉しく、初演がとても楽しみです。賢治さんも応援してくださいね!
 
 

不思議な話     恵川智美(演出家)

 賢治の童話は、不思議な話ばかりです。時間も空間も自由自在、宇宙に飛び出したり、雪や森や水の中深くもぐったり。中でも、この二作品『北守将軍と三人兄弟の医者』『オツベルと象』は日本を飛び出し、私たちをまだ見ぬ外国の奇妙な町に連れていってくれました。  
 『北守将軍…』には、西北の涯て、乾いた砂漠の砂混じりの風やどこまでも真っ直ぐな大地を感じます。『オツベル…』では、暑い太陽の下、陽気に働く人たちの笑い声が聞こえるようです。一度も行ったことのない国々を、インターネットなどなかった時代に、賢治はどうしてこんなに生き生きと描けるのか、これまたとっても不思議です。
 さて、この外国とおぼしき町で奇妙な出来事が起こります。
 『北守…』では、30年も北の大地に行ったきりだった北守将軍の軍隊がボロボロになって戻って来ます。将軍のお尻は鞍にくっついて離れず、奇妙な草が将軍や兵士たちに生えています。
 『オツベル…』では、一匹の白象が最新式の稲こき機を導引して経済効果を上げているオツベルの工場に遊びに来て、そのまま働くことになります。
 二つの話はそれぞれ奇想天外な展開を経て大団円へと向かうのですが、話を聞いているうちに不思議な気持ちになってきます。可笑しくて笑っちゃう話なのに、ふと、哀しくなるのです。残酷な場面なのに、クスッと笑っちゃいます。何でだろう、不思議です。
 
 そんな物語に、二人の素敵な作曲家が音楽をくれました。打楽器が印象的なリズムを刻む曲と、とっても陽気で遊び心満載の曲です。二つの話は音楽と出会い、さらに膨らみ、縦横無尽に動き出しました。楽しく、愉快に、哀しく、残酷で、ユーモアたっぷりに!
 
 そして、それをジャガイモたちが演奏すると…あら不思議、賢治の愛した市井の人々の声が聴こえてきました。
 「おや、君、川へはいっちゃいけないったら。」って…。
 
 

公演詳細 

【山形公演】

合唱劇「オツベルと象」(委嘱初演)
 
◆日時:2015年11月29日(日) 14:00 開場 / 14:30 開演
◆会場:山形市民会館 大ホール
◆入場料:一般券 1,500円 / 学生券 1,000円 / 中学生以下無料
 
◆主催 : 合唱団じゃがいも、山形市、山形市民会館管理運営共同事業体
◆後援 : 山形県芸術文化協会、山形市芸術文化協会、山形県合唱連盟
◆チケット取り扱い : 辻楽器店、富岡本店、山形プレイガイド
 

【東京公演】

◆日時:2016年1月31日(日) 14:00 開場 / 14:30 開演
◆会場:かめありリリオホール
◆入場料:一般 2,000円  学生・高校生 1,000円
 
◆チケット取り扱い所:林光事務所、
           かつしかシンフォニーヒルズ、かめありリリオホール
 
◆主催:合唱団じゃがいも
◆後援:山形県芸術文化協会、山形県合唱連盟
◆企画・制作:林光事務所
 
合唱劇「オツベルと象」 特設ページはこちら
 
 

フォトギャラリー【山形公演】

 
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(撮影・編集:鈴木 康弘)